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コラム

田田田堂の新しいパートナー生産者さんを訪ねて加東市へ〈後篇〉

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お米農家さんと向き合いながら、これからのものづくりを考える田田田堂に、新たなパートナー生産者さんが加わりました。山田錦の産地・兵庫県加東市にて、有機農法に取り組んでいる4人の農家さんたちです。前篇では、25年にわたってできるだけ環境にやさしい米作りに取り組んできた出井利之さんのお話をご紹介しました。後篇は、その出井さんに誘われて、有機栽培に挑戦中の藤本一信さんのお話です。

東京ドーム約2.3個分もある田んぼの約1/3を、有機栽培に

出井さんより8歳年下で現在68歳の藤本さん。ふたりは昔から近所の顔なじみでした。藤本さんと出井さんの共通点は、長く勤め人としての仕事を続けながら、兼業農家として代々受け継いだ田んぼを守ってきた点。藤本さんは53歳まで市役所勤めを続け、その後早期退職をして農業一本の暮らしになりました。今は、義理の息子さんと二人三脚で、11ヘクタール(東京ドーム約2.3個分です!)の田んぼを管理しており、作物の9割5分を山田錦が占めています。

藤本さん
「4〜5年前から徐々に委託管理(注:高齢化や後継者不足などの理由で、田んぼの管理ができなくなった農家さんから委託を受け、代理で田んぼの管理を行うこと)が増えてます。今じゃ、うちの親が所有してた田んぼの5~6倍の面積を、娘婿と管理してることになりますね。」

広大な面積の田んぼを守るため、積極的に機械化・省力化も積極的に推進。しかしその一方で、11ヘクタールのうち3.5ヘクタールは、藤本さんが担当する有機栽培用に確保してあります。わざわざ手間のかかる農法にチャレンジしたのは、出井さんの誘いに心が動いたからでした。

藤井さん
「もともと私も有機には興味あったんでね。そういう価値を生み出さないと、これから山田錦も生き残りはむずかしいかなとも感じていましたし……。ただ迷いはありましたよ。出井さんが大変な苦労をされているのをずっと見てましたからねえ。」

「ええ塩梅」の田んぼをめざし、今はまだ我慢と試行錯誤中

こうして8年ほど前に有機栽培に挑み始めた藤本さん。しかしその道のりは決して楽ではありません。

藤本さん
「2年目ぐらいまでは、まだ残留農薬成分が効いてるから、そんなに雑草に悩まされることもなかったんですけど、3年目4年目となると収量がどんどん落ちていくのに比例して、雑草の量がダーッと猛烈に増えてくるんですよ。でも耐え忍ぶしかない(笑)。有機を始めて8年ほど経ちますけど、まだ上向きにはなってないですね。」

農薬という便利なものが目の前にあるのに、使わない、ということ。「えーい、もう使っちゃえ」なんて、”ラクしたい”誘惑にかられたりしないのかな?と思いきや……。どうも藤本さん、出井さんのアドバイスを聞きながら、あの手この手を試してみるのがちょっと楽しくもある様子です。

藤本さん
「たとえば、田植え前にヘアリーベッチ(注:豆科の植物)を蒔いて、それを田んぼにすき込んで緑肥にします。それから田植えの時には、花咲か爺さんみたいに米ぬかを撒くんです。米ぬかが水の中で発酵する時に、有機酸を発生して雑草の発芽を抑制してくれるんでね。あとは去年あたりから食酢も撒いてみてます。米ぬかが効き始めるのがちょっと遅いので、それまでの抑え役ですね。」

出井さんは、そんな藤本さんをあたたかく見守ります。

出井さんが語る作業のコツに耳を傾ける藤本さん。「へえーっ、そうなんや!」「今度やってみよ!」とまるで少年のように生き生きしています。

出井さん
「彼は今、大変な思いをしてると思うけども、草を抑える技術というのはいろいろあってね。私も最初は、草を全部抜いたろうとムキになっていたけど、雑草が発芽する頃にどうするか、根が出始める頃に何をするか。そういうことがわかってくると、たとえ雑草のタネや根が土中にしぶとく残り続けてたとしても、草が生える量は減ってきます。なんとなく、”ええ塩梅”の土壌になっていくんです。」

薬で力ずくで抑えこむのではない「ええ塩梅」の田んぼ。それはなんと頼もしくサスティナブルな世界でしょう。

初めてのミズホチカラ栽培を通して、有機への転換を進めたい

そして来年2024年の春には、藤本さんのもうひとつのチャレンジが始まります。それが山国地域でも初となるミズホチカラの栽培。秋に収穫したお米はすべて米粉となって、田田田堂の焼き菓子やパンに生かされるのです。

藤本さん
「米粉の品種を育てることは、まったく考えてなかったですが、西田さんからお話をいただいて、やってみたいと思いました。今年無農薬でコシヒカリを植えて育てた田んぼが3.5反(約1000坪)あるので、来年の春そこに植え付けようかと。」

農林水産省が定める「有機JAS」認証を得るには、3年以上農薬も化学肥料も使用していないことが条件になっています。そして農家さんにとっては、この慣行栽培から有機栽培への移行期間を乗り越えられるかどうかが大きいハードルとなっています。

そんな中でミズホチカラ栽培は、収益を確保しつつ田んぼを有機に切り替えていくひとつの手段。デリケートで栽培がむずかしい山田錦と違って、ミズホチカラは育てやすく収量も安定しているからです。そして3年が経過して「有機JAS」の認証を得られたら、次はその田んぼで山田錦を育てるという青写真も描けます。田田田堂にとっても、そんなふうに環境配慮型の農業が増えていくことは願ってもないことです。

帰り際、とれたての新米にどっさりの枝豆、そして自慢のお酒「せんどぶり」をお土産に持たせてくださった藤本さん。その日の夜の食卓で味わったおいしさの向こうに、お二人の柔和な笑顔が見えるようでした。そして、これからも続いていく田田田堂とお米農家さんのタッグが、ますます楽しみにもなったのでした。

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