米粉パンの研究最前線を訪ねて | ハニーマザー

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コラム

米粉パンの研究最前線を訪ねて

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田田田堂の店舗がオープンして早くも3ヶ月。店頭限定で販売している「お米のパン」もすっかり看板メニューのひとつになりました。今は1日も早く全国にお届けできるよう、ネット通販に向けた準備が進められている様子ですが、そんな最中、ひょんなことから米粉パンを研究されている大学教授にお会いすることに!普段は覗くことのできない研究最前線、さてどんな様子でしょう。

さながら厨房のような研究室で味わう、ふわふわ食パン

田田田堂の山田錦米粉とミズホチカラ米粉を使って山田先生が焼いてくださった食パン。

大阪と京都の県境に位置する摂南大学キャンパス。光がふんだんに差し込む校舎に足を踏み入れると、なんだか学生時代に引き戻されたような気持ちでワクワクしてきます。私たちがこの日訪ねたのは、農学部 食品栄養学科 山田徳広教授の研究室。米粉を使ったグルテンフリーパンの開発や、健康に負荷をかけないスイーツの開発を専門にされている先生です。日本各地から集めた米粉でパンを焼いては比較研究をされている中で、田田田堂のミズホチカラ米粉もお試しいただいたことがご縁の始まりでした。

「おじゃましまあす」と山田先生の研究室のドアを開けると、パン生地が発酵する甘い匂いが私たちふわっとを包みます。見渡してみればオーブンありスタンドミキサーあり、パン発酵機ありで、さながら厨房のよう。食パン型や調理器具も所狭しと並んでいます。

この日の訪問は、​​兵庫県をはじめ各地で六次産業化プランナーを務める空庭みよこさんも一緒です。空庭さんは田田田堂と山田錦発祥の地・兵庫県多可町とのご縁をつないでくださった方。今も行き場を失ったお米を生かして農家さんたちの収益アップにつなげたい!とあちこちで精力的に活動を続けておられます。

早速、山田先生からどうぞと手渡されたのは、田田田堂のミズホチカラ米粉と山田錦米粉で焼いた食パン。白くつやつやとした美しい生地は、細かな気泡を含んでふんわりやわらかく、口どけも上々。現在田田田堂で販売している、生米からつくるパンとはまた違う食べ心地に、米もの料理家・西田晴美も興味津々の様子です。

米粉パンで多くの人の悩みを解決したい!でもその前に……

山田先生:
「米粉パンの研究を始めたのは今から5〜6年前です。グルテンの摂取によって体調に異常をきたしてしまう“セリアック病”というものがありますが、これに悩む人は日本人よりもはるかに欧米人に多いんです。ですから私は最終的には米粉パンを海外に広げたいと思っています。ただ、今はまだパンを開発する前の段階の、”粉のつくり方”を研究しているところですね」

まさに「千里の道も一歩から」。

先生の「粉のつくり方研究」は、製パンに適したお米の特性を解明するところから始まります。日本全国からあらゆる米粉を買い集めて比較研究しているのはそのため。特に注目しているのは、アミロースとアミロペクチンという2つの成分からなるデンプンの質です。まだ研究途中のため詳細な情報公開は控えたいとのことですが、「パンに向くのはこういうデンプンの性質」という仮説はかなり固まりつつあるそうです。将来的には日本の国産米だけでなく安価な外米でも製パンの可能性を探っていきたいというのが先生の思いです。

製粉から発酵、焼成まで、米粉パンレシピの最適解を探して

焼成用の食パン型もいくつも試したという山田先生。中にはメーカーに特注で作ってもらったものもあるとか。

そして先生の研究は、製パンに適したお米の解明だけではありません。パンの焼き上がりを左右する「製粉」の技術を産学連携で確立していくことや、発酵〜焼成までのベストな工程を開発することも研究のうちです。

製粉に関しては、デンプンの損傷を抑えながら粒度を細かくできる「湿式製粉」について、製粉会社と目下ブラッシュアップ中だそう。湿式製粉とは、気流の中で水を吸わせたお米同士をぶつけ合って粉にする方法です。先生は、この気流の中でお米同士がぶつかる強さ(回転数)と、粉砕後の乾燥温度・温風の強さにこだわって、粉の仕上がりを検証しているそうです。

そして発酵〜焼成までの工程づくりに関しては、この厨房さながらの研究室で、先生自らが行っています。粉と水の配分をどうするか。発酵は何度で何分間行えばいいか。どんなオーブンや型を使うか。焼成温度や時間をどうするか。それらの実験データを集めて、再現性のあるメソッドに練り上げていくことが先生の狙い。

山田先生:
“「オーブンの熱伝導とか、工学的なところに強いメーカーさんと融合して、製パンのメソッドが確立していけば、業界が変わると思います」”

もちろん、これまでも米粉パン研究の世界を切り開いてきた先人たちは存在しました。しかし小麦粉パンの文化が何千年もの歴史の中で熟成されてきたのに比べると、米粉パンの研究はたかだか10年程度の蓄積があるのみ。これまでの研究が主に「米粉をパンにできるか」というそもそもの話に取り組んでいたのに対し、先生が取り組むテーマは、「柔らかくて食味がよい、“売れる”米粉パンを安定的に生産するには」という次のステップです。米粉パンがもっと私たちの暮らしに浸透すれば、空庭さんが関わる農家さん支援にも新たな可能性が増えてきます。

空庭さん:
“「日照りが続いた年ほど、お米の粒が白濁する傾向があるんです。そうなると規格に満たず値段もつかない”中米(ちゅうまい)”が増えてしまう。これから温暖化が進む中で、そういう中米を米粉にして活用していくニーズは高まっていくと思います」”

そんなことを話しているうちに、また次のパンが焼き上がってきました。
グルテン不耐性に悩む世界中の人たちに新たな選択肢を。そして行き場を失ったお米にも活路を。産学連携で広がっていく米粉パンの可能性にワクワクが広がった1日でした。

さらに研究を続けていただくための素材として、田田田堂で使用している籾米もお渡ししてきました!

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この記事を書いた人

松本 幸

松本 幸

ハニーマザーのコミュニケーションディレクターを務めるフリーランスのコピーライター。神戸育ち大阪在住。著書に、2002-2006年のパリ在住経験から企画編集執筆した「パリ発キッチン物語おしゃべりな台所」がある。江戸落語と文楽が好き。

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