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コラム
山田錦の稲刈りを初見学!27歳の若き生産者藤岡さんを訪ねて
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こんにちは、松本です。
酒米の王様「山田錦」の生まれ故郷、兵庫県多可郡多可町とのご縁ができて約1年。そして、山田錦米粉のうまみを生かした贅沢おつまみ「山田錦サブレ」を世に送り出してから4ヶ月が経ったこの秋。ハニーマザーは初めて山田錦の稲刈り現場を訪ねました。田んぼの主は、27歳の若き生産者・藤岡啓志郎さん。山田錦という兵庫県の地域資源を通して、おいしく楽しい米粉食文化を広げていこうとしているハニーマザーに、新たに登場した心強いパートナーなんです。バイオ医薬品開発の道をめざした大学時代を経て、「本当の健康」を考えた末に、農業に行き着いた藤岡さん。爽やかな笑顔の陰にある熱い思いにも耳を傾けてみました。
無農薬で育った、迫力たっぷり山田錦の田んぼといざご対面!
山田錦の生まれ故郷、北播磨地域に位置する兵庫県多可郡多可町。その中の坂本という地区に、藤岡さんの田畑があります。ハニーマザーと藤岡さんをつないでくださったのは、以前の記事(「食べて応援!次世代に語り継ぎたい、兵庫県産山田錦のこと〈前篇〉)でご紹介した「農園若づる」の辻朋子さん。これから山田錦の米粉をもっと多くの人に知ってもらいたい、というハニーマザーの思いに応えて、「坂本にもがんばってる若手がいますよ」とご紹介くださったのでした。
稲刈りの本番は、まぶしい秋晴れに恵まれた10月中旬。よく晴れた日、朝露の湿気がすっかり乾くのを待って、午後からコンバインを入れるのが作業をスムーズに進めるコツだそう。藤岡さんは無農薬の田んぼと、特別栽培(慣行農業に比べ、農薬・化学肥料を50%以上削減した栽培)の田んぼを使い分けて山田錦を育てていますが、ハニーマザーが使わせていたただく山田錦は、無農薬栽培のもの。私たちが田んぼに到着した時には、まだ黄金色の稲穂が一面に広がり、さやさやと風に揺れていました。酒米の田んぼを初めて見る私たちは、その粒の大きさにびっくり。
「大きいでしょう。この粒の大きさが山田錦の特長なんです。今年はウンカ(害虫の一種)にもやられず、大きい台風も来なかったので、比較的いい年でしたね。自分で山田錦に取り組むようになって今年で3回目ですが、田植え前の土づくりや肥料の与え方、水を抜くタイミングなど、自分なりに新しいやり方を試してみたことがうまくいった納得感があります。」(藤岡さん)
「結局、人を健康にするのは食べもの」というシンプルな原点
藤岡さんが専業農家となったのは、2019年。7代続く農家の家に生まれ育ったものの、学生時代は農業を継ぐ気はまったくなく、「人を健康にするバイオ医薬品や化粧品の研究開発をしたい」という思いで、大学に進学した藤岡さん。やがて興味は医薬から予防医学へと向かい、その分野を究めるべく大学院にも進みましたが、学びを深めるうちに見えてきたのは、「結局、人を健康にするのは食べものだ」というシンプルな原点でした。
「代々やってきたことの価値に改めて気づかされましたね。それで多可町に戻って、農業をやっていこうと決めて大学院を中退したんですが、家業に戻る前に、最先端農業もしっかり学びたいという思いがあり、海外農業研修制度を利用してカリフォルニアに渡りました。19か月間の滞在中に現地の種苗メーカーにお世話になって、タネづくりの勉強をさせてもらったことは大きかったですね。作物をつくる上でタネや土がいかに大切かということもそうですし、植物は毎日毎日顔が違うということに、改めて気づかせてもらいました。」(藤岡さん)
2019年にアメリカから帰国した藤岡さんは、自身が代表となって「株式会社アグリブライト」を設立。山田錦のほか、無農薬にんにく、無農薬黒豆を育てて出荷しています。
「無農薬で作物を育てるようになったのは、父の代からです。環境にやさしい栽培ということに人一倍こだわりがある父で、僕もその意志を受け継いでいる形ですね。」(藤岡さん)
無農薬で作物を育てる大変さと面白さ
とはいえ、栽培期間が長く何かと気遣いの多い山田錦を、無農薬で栽培するというのはなかなかハードルの高い話。慣行栽培の方が、収穫量が多いのも事実です。山田錦の生まれ故郷である多可町でも、無農薬で山田錦を育てている農家さんは1%ほどしかいないのでは、と藤岡さんは話します。
「僕も初めての年は“思ってたのと違う!”ということがいっぱいあって、大変でした。でもそれがまた面白いところでもあって、うまくいかないことがあったら、“なんでだろう?”って考えて、違うやり方を試してみる。それがうまく行ったら楽しいし、やりがいにつながっている気がしますね。自分もどこか研究者気質というか、データや記録を取って、調べたり考えたりするのが好きなんです」(藤岡さん)
ヘアリーベッチというマメ科の植物を田植え前に蒔いて育てることで、土壌をしっかり肥やす「緑肥」という手法はお父さんの代から取り入れていましたが、藤岡さんが栽培を担うようになってからは、その緑肥の種類も変えてみるなど、いろんなトライアルに積極的にチャレンジ。除草にお酢を使ってみたり、田んぼから水を抜くタイミングをギリギリまで引き延ばしたり、「よさそう」と思ったことはとにかく実践して試してきたといいます。
「あとはやっぱり育苗の出来が大事で、“苗半作(なえはんさく)”という言葉があるぐらいなんです。苗がうまくできたら半分は成功したも同然ということで、苗づくりにはとても神経を使います。農協から稲を購入する農家さんも多いですが、無農薬でやる農家は、育苗から自前でするのが基本ですね。」(藤岡さん)
4月末から5月頭にかけて種籾を水に浸けて発芽させ、その後苗床で生育させて、6月上旬~中旬に田植え。生産者の腕が問われる大切な1ヶ月半です。
「僕は作物が最初に芽を出す瞬間が大好きなんです。自分が愛情込めて育てているものが、変化していくのを見るのが楽しい。植物は正直なので、自分がやればやったなりに、手を抜けば抜いたなりに、そのまんま出るのでわかりやすいです。」(藤岡さん)
多可町のこれからの農業を考えたい
20代にして農業法人の代表となった藤岡さん、現在、自社農地を着々と拡大中です。その背景には「ふるさと多可町のこれからの農業を考えたい」という思いがあります。
「農業って第一次産業と言われますけど、国の補助金頼みで成り立っている部分も多く、僕は“日本の農業を果たして産業と呼べるのか?”という思いがあるんです。アメリカの先端農業の現場を見ると、大きな農地面積に大規模な機械投資をして生産性を上げているところが多い。GPSトラクター(人工衛星からの位置情報をもとに農作業を効率化する機械)や農業ドローン、スマホでの灌水制御もごく身近に普及していますが、日本はスマート農業を取り入れようにも、農地の所有区画がモザイク状に細かく分かれていてメリットが発揮しづらいという難点があります。」(藤岡さん)
その一方で、藤岡さんのいる多可町でも高齢化と人口減少の影響で不耕作地が増えているのが実情。
「だから今は、農地を買わせてもらうんじゃなくて、お貸しいただいて管理を委託してもらうというやり方で、農地を拡大しています。不耕作地が増えると災害のリスクが高まったり景観上もよくないので、地元の方も困っているんですね。“うちの田畑もやってくれないか?”というご相談もたくさん持ち込まれるようになって、うちが管理している農地面積は、この2年間で1.5倍になりました。今はまだ16~17ha程度ですが、僕が40歳になるぐらいまでに、50haまでは拡大したいと思っています。ITも取り入れた環境にも人にもやさしい農業で、作物の質を高めつつ、雇用も生み出し、景観も守っていきたい、というのが目標ですね。」(藤岡さん)
うーん、なんというまっすぐな情熱!ハニーマザーの西田代表が惚れ込んでしまうのもうなずけます。次世代農業を考える藤岡さんのような方とハニーマザーが、モノづくりやコトづくりを通して協働できるとしたら、こんなにワクワクすることはありません。山田錦米粉を使った商品をお客様に届けるのはもちろんのこと、いつかはお客様が藤岡さんの田んぼを訪ねて直接交流できるような場づくりもできれば……。そんなことを思いながら帰路についた取材チームでした(ちなみに、この日お土産にいただいた黒豆枝豆と黒にんにくも格別のお味!いつかハニーマザーのお店でもご紹介したいと思っています)。
この日刈り入れをした藤岡さんの無農薬山田錦が、製粉され米粉となってハニーマザーキッチンに届くのは12月初旬ごろ。ハニーマザーキッチンの方でも、山田錦米粉をめぐる新たなプロジェクトが水面下で動き始めています。ちょっとサプライズなニュースが届くまで、もう少しだけ、お待ちくださいね。