広がりゆくお米の可能性を信じて【お米農家・藤岡さんと辻さんに聞く】 | ハニーマザー

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コラム

広がりゆくお米の可能性を信じて【お米農家・藤岡さんと辻さんに聞く】

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「お米から広がる新しい食のかたち」をテーマに、ハニーマザーの姉妹ブランド「田田田堂」が誕生して1年。その節目の春、神戸・御影に実店舗「田田田堂キッチン&ストア」がオープンしました。プレオープン初日には、兵庫県多可町の山田錦生産者「七代目藤岡農場」の藤岡啓志郎さんと「農園若づる」の辻朋子さんの姿も!
田田田堂にとって欠かせない存在であり、現在お米農家として新しい可能性に挑んでいるおふたり。今回は、そのチャレンジストーリーに耳を傾けてみましょう。

「田田田堂」が生まれるきっかけとなった、大切な出会い

メディア関係者やお取引各社、近隣の方々で賑わったプレオープン初日。店舗限定の生スイーツ「お米のタルト」を試食された方からは「これが100%プラントベースとは……」と驚きの声が上がりましたが、藤岡さんと辻さんも味わってニコニコ。

乳・卵・小麦不使用、100%プラントベースでできた田田田堂の「お米のタルト」

藤岡さん
「素材そのものの素朴な味が生きていて、あっさりして食べやすいですね。私が生産したお米が、こんな素晴らしいお菓子になって人の手に渡っていくのを見届けられるのが素直にうれしいです。私たち生産者は、自分が作ったお米がどんなふうに使われているのか、なかなか見ることはできないですから……」

辻さん
「本当に、スーッと入っていく感じがとても心地よいです。この完成形に至るまでにすごくたくさんの試行錯誤や工夫がおありだったんだろうなと思うと、よくぞここまで……って思いますね」

藤岡さんといえば、すでに「田田田堂」ファンの皆さまにはおなじみのパートナー生産者。そして、その藤岡さんと「田田田堂」のご縁をつないでくださったのが、辻さんでした。

以前の記事でもご紹介したように、辻さんは「いつか自分の育てた山田錦で酒造りを」との夢を抱いて3年前に新規就農した女性です。現在、辻さんと藤岡さんは、地元でもごくわずかしかいない有機農業者の集まり「多可町有機農業推進協議会」のメンバーとして、お互いに励ましあい情報交換しあう仲。とはいえ、ここまでの辻さんの道のりは楽なものではありませんでした。就農1年目にしてコロナ禍に見舞われた上に、重労働で体を壊したことも。

2020年に新規就農し、「農園若づる」を立ち上げた辻朋子さん

辻さん
「藤岡さんも、”この人ほんまに農業でやっていけるのか?大丈夫か?”って思っていたと思います(笑)。でもあの大変な思いがなければ、まさか山田錦を米粉にしようなんて思わなかったかもしれないですね」

ハニーマザーが、縁あって辻さんの山田錦米粉を初めて使わせていただいたのは2020年の晩秋。それまでも米粉を使ったものづくりに取り組んではいましたが、この出会いをきっかけに、「山田錦は食べてもおいしい!」という気づきと、「コロナ禍で行き場を失った山田錦を応援したい!」という気持ちで、ハニーマザーはお米活用レシピの研究開発に深く入り込んでいくことに。そしてついに、会社を上げて「もっとお米の可能性を広げていけるブランドを作ろう」との決意を新たにします。そう、これが「田田田堂」につながるのです。

そのタイミングで、「私ではどうしたって生産量が追いつかないから、将来のある若い世代にチャンスを」と考えた辻さんからバトンを受け取ったのが、当時27歳の藤岡さんでした。

藤岡さん
「辻さんにお会いしてなかったら、私は今ですら米粉に携わってなかったかもしれません。米粉の可能性に気づけたのもハニーマザーさんとつながれたのも、色んな方のご縁のお陰です」

辻さん
「山田錦といえば日本酒の原料、という概念が強固で、粉にすることに抵抗のある方は多いと思います。でも藤岡さんはいろんな展示会にもリサーチに行かれて、“外の目線”をお持ちだったんですよね」

地元初の米粉向け品種の栽培にチャレンジ

そんなおふたりが昨年から新たに取り組み始めたのが、米粉向け品種の栽培。藤岡さんは「ミズホチカラ」、辻さんは「笑みたわわ」という品種にチャレンジしています。おふたりのことですから、もちろん有機栽培。慣行栽培に比べると除草や施肥の手間・負担は増えますが、それでも「できるだけ環境にやさしい栽培を」というこだわりを貫いています。

藤岡さん
「ミズホチカラはもともと九州で作られていたお米ですから、多可町の環境に合うかどうか、まずはお試しでやってみようと、減農薬の山田錦を作っていた田んぼで、昨年少し作付をしてみました。肥料食いで有機でやるのは大変だと聞いていましたが、背が低くてコケにくく、どちらかというと育てやすかったと思います。その点、山田錦は、“コケ米”というぐらい、台風とか突風で倒れやすくて気苦労が多いんですよね」

藤岡さんのミズホチカラ米粉は、まだ国内でもごく稀少な有機JAS認証(転換期間中)。今年から「田田田堂」で販売を開始していますが、登場と同時に人気を呼び、品切れが続出したほどです。

「七代目藤岡農場」の藤岡啓志郎さん
「有機米粉(ミズホチカラ)」(転換期間中)

有機JAS認証には「指定の農薬・化学肥料を3年間使用していない土壌で育っていること」と言う条件が課せられます。そして、その3年間の移行期間に採れた作物につけられるのが「転換期間中」という表示です。この移行期間は、農作業の負担が増える一方で、収量も減少するため、農家さんにとっては大きなハードルになっています。農家さんたちがこの不安定な時期を乗り越えて有機栽培に移行するには、メーカーや生活者が買い支えることも大切なのです。

一方の辻さんはというと……

辻さん
「藤岡さんがミズホチカラをされるなら、私は笑みたわわを育てよう、って思いました。笑みたわわは、ミズホチカラの子どもに当たる品種で、気候への適応性がより広がっているんです。力強い生育をする品種で、生育のスタートは遅いけれど、その後でぐんと一気にたくましくなるんです。茎が太くキリッと立ってる姿が美しくて、毎朝田んぼに行くのが楽しみになるぐらいでした。でも、量的にはまだ山田錦の1/10ぐらいかな」

藤岡さん
「うちも昨年は山田錦の1/30ぐらいでしたが、去年やってみて「いける」という手応えが得られたので今年から増やしますよ!」

多可町で米粉用のお米を育てているのは、今のところまだ藤岡さんと辻さんのおふたりだけだそう。そして藤岡さんは現在、有機栽培でミズホチカラを育てる仲間を増やそうと、周囲の農家さんに声をかけています。

藤岡さん
「米粉に興味を示してくれる人はいますが、有機となるとハードルが高いようで、今のところ反応はまだまだ……。除草の機械を買う必要があったり、機械除草だけで追いつかないところは手作業も必要なので体力的にもきついですしね。それに化学肥料は少ない量で即効性が期待できますが、有機肥料は効きがゆっくりで、施肥作業もなかなか大変なんです。30代とか40代とか、これから20年30年と農業を継続していく意思のある人が、手を上げてくれればと思うんですけどね」

今年の作付には間に合わなかったけれど、また来年、仲間が増えてくれれば……と、まっすぐ前向きに話す眼差しが印象的でした。

お米から広がる幸せの輪を、もっと大きく

米粉を巡るおふたりのチャレンジ精神を物語る、もう一つのエピソードは、辻さんの「農業女子アワード(主催:株式会社マイファーム/後援:農林水産省)における快挙。農や食、暮らしの活性化アイデアを競い合うこのコンテストで、辻さんは山田錦の規格外品からつくるアルファ化米粉を、介護食に使うことを提案し、「ベストウーマン賞」に輝いたのです。

辻さん
「介護食ってミキサーにかけてトロトロにする工程が必要なんですが、アルファ化米粉を使えば、器に入れてお湯を加えて混ぜるだけですぐゲル状のお粥ができます。アルファ化米粉って、これまでずっと増粘剤、添加物と見なされてきましたが、私としては主食としても十分おいしいっていうのが実感としてあったんですね。私も父親を見送った経験がありますから、人生最後の瞬間までおいしいお米を食べる喜びがあることを伝えたい、と。それで、プレゼンしてみようって思い立ったんです」

介護食だけでなく離乳食にも使える上質なインスタントお粥。その手軽さに加えて、山田錦のふくよかな甘みや香ばしさがしっかり感じられるところも自慢のポイントです。ちなみに、辻さんの山田錦をアルファ化米粉に製粉するのは、障がい者就労継続支援の事業所。かつて支援学校で教員をしていた経験がある辻さん、自らが手塩にかけた山田錦を通じて、お米の新しい価値を発信していくことと同時に、障がいを持つ人たちの社会参加の一助に、という思いもあったそうです。

コロナ禍や日本酒離れなど、山田錦にとって逆風も多かった時期を、諦めない粘り強さと柔軟さで乗り越え、いま新たな境地に立っているおふたり。お米の可能性を追求していこうとする「田田田堂」やハニーマザーにとって、常にたくさんの気づきと学びを与えてくれる頼もしい「水先案内人」なのです。

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この記事を書いた人

松本 幸

松本 幸

ハニーマザーのコミュニケーションディレクターを務めるフリーランスのコピーライター。神戸育ち大阪在住。著書に、2002-2006年のパリ在住経験から企画編集執筆した「パリ発キッチン物語おしゃべりな台所」がある。江戸落語と文楽が好き。週末菜園チャレンジ中。

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